(26)時給800円のバーのママ⁈

そのバーラウンジで働くことが決まった時
実はわたしは
お酒のこと、全く知らない人だったのです。
そのホテルのバーラウンジに並んでいるのは
『ヘネシー』や『バランタイン』
『山崎』や『響』
なんていう…さすがにお酒を知らないわたしでも
なんとか名前は聞いたことある…っていう類いのお酒。
ところが…
わたくし…
『バーボン』と『スコッチ』の違いすら知らないど素人でありまして…(笑)
一応、それくらいは…とググってはみたものの
さっぱり頭には入ってこず(笑)
常連のお客様と
ときおり来られる宿泊のお客様…
ホテルのバーラウンジですし
そんなに忙しいお店ではありませんでしたが
あぁいうところにいる時は
人さまのお名前を覚えるのがすこぶる得意でありまして
一度お話しした殿方のお名前は
ほぼ忘れずその方のボトルが出せたものです…
なぜあの時はそれができたか不思議なくらい
いまは、お越しくださるお客様のお名前もお顔も
アヤシゲなものでして(笑)
つい先日も
『はじめまして…』というわたしの挨拶に
まったく同時に
『お久しぶりです!』って音が聞こえて慌てふためきましたの(笑)
ほとんどの時間、お顔にタオルかけてるから…ということで
ご勘弁くださいませね…
いやいや
話は戻します。
とにかく
お酒を知らない…知らなすぎる…
『シングル』と『ダブル』はなんとなく感覚でわかっても…
『ハーフ』って言われた日にゃぁ
???でしばらくかたまりましたの(笑)
その程度の知識しかなく
まったくお酒の世界の経験のないアラフォー女が
着物を着て
カウンターの中に入っていると想像してみてください…
それはもう
すでに20年選手のママかと思われるような
変な落ち着きだけはありまして(笑)
上半身は襟元をなおしながら
ボトルを取りだし、グラスを出し…と
優雅っぽく見せておきながら…
必死でカウンターの陰のアンチョコを見る…
まるで
水鳥が優雅に泳ぎながら
必死で足を動かしている
まさにそんな状態のスリリングな日々が続きました。
カウンターのお客様に
カクテルなんか注文された日にゃぁ
『ジン』が何ミリなのか?
『レモンジュース』が何ミリなのか?(笑)
見てないふりして小さな数字を確認するのが
とっても得意になりました…
そんなものに頼ってるから
いつまでたっても覚えないですよねーー
そして
いまはもうその芸当はできないな…
だって
一回ずつ、オトナのメガネを取り出さないと
その数字が見えなくなっていますもの、きっと(笑)
まぁ、そんなこんなで見たことのない未知の世界は
とっても面白く…
ヤボなお客様もいらっしゃらない空間は
それは心地良いものだったのですが…
なんと…
そのお店…
時給が800円だったのです…笑
(あくまでもその頃です)
夜のお酒の世界で…です…
自前の着物を着て
お店に出る前からずいぶんの時間を費やしてるというのに…です。。。
そう…そんな状況のまま
数ヶ月経って
愚痴の一つも出始めた頃…
わたしは師にそのことをはじめて愚痴りました。
『先生、実は時給800円なんですよ…』
その時、師から帰ってきた言葉に
わたしは仰天したのですが…
『あぁ、そうですか…近藤さん。
それは良かったですねーー!
本当に良かった!
是非とも、そのままその金額で働かせてもらいなさいね…』
『???
は???』
と思いましたが
さすがに師の言葉に反論はできず
『はい……ありがとうございます……。』
と、力なさげにお返事しました。
師が、その時何を意味してその言葉をおっしゃったのか
それからしばらくしてお伺いしたような気がしますが
なんだか
話をはぐらかされて終わりでした(笑)
でも
きっとそれで良かったのです。
そのあと
わたしにとって
想像もしなかった
大きな出逢いがやってきたのですから…。
800円の時給で
夜また家に居ない自分を作ってしまったことへは
大きなジレンマを感じていました。
さすがにもう少し時給をいただけると
勝手に思い込んでいたのです。
そして、家計は少しは楽になるかと…
そんな期待もどこかにあったのでしょう…
ま、そうは言っても
なんの交渉もせず、時給さえも聞かず
すんなりそこに身を置いてしまったのはわたしですから
なんとも文句の言いようもないんですけどね…笑
そして
その仕事をさせてもらっている2年余のあいだ
結局、お酒のことはさっぱりわかりませんでした。
逆に、なぜわたしは
こんなに探求心や学習意欲がないんだろう…と我ながら残念に思うと同時に
客観的にそれを不思議に感じておりました。
まぁ、そんな中で
唯一これだけは自慢できるかなぁと思うのは
そこにいるあいだ
一滴もお酒を呑まなかったこと。
車で来て車で帰る。
初めのお酒の世界へ出してくれた家族への
『安心』だけは
守りたかったのです。
だから
もちろんお客様とのアフターなんて
一度も行きません。
電話番号さえお教えしたこともありません。
唯一、ひとりだけ
電話番号を交換したのは
仙台から来たという
明らかにサーファーだと思われる
チャラチャラした風のお兄ちゃん。
カウンターには座るな!…と念じていたのに(笑)
思い届かず…笑
カウンターにドカンと座り
いきなり何やら話しはじめます。
ところが面白いものですね…
閉店間際に来た彼と
なぜかそのまま話が弾み
カウンターの奥から
終われと合図する支配人を横目に
知らん顔を決め込んで
意気投合したのです…
そう…その人だけです。
電話番号を教えたのは。
そして
彼は
なぜか今も
わたしの大のお友達!
何があっても裏切ることのない
そんな大切な仲間だと思っています。
『縁』とは本当に
異なもの味なもの…ですね。
さてさて
ようやく
『イヤーコーニング』に出逢える時がやってきました。
これって
800円で文句も言わずに働いていたご褒美なのかしら?
なんてね…(笑)

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