(7)復讐…⁈

その日は突然きました。
それが、わたしが何歳の時だったのか
いったいどんな季節だったのか…
どんな服を着ていたのか…
どうしても思い出せないことが多すぎるのですが
その反面、彼女がその時発した言葉は
忘れようと思っても忘れることはできませんでした。
彼女は、父が経営している会社の子会社というか
別動隊のようなところで手腕を発揮している
とってもハキハキテキパキとしたいつも笑顔の明るい女性社員でした。
きっかけが何だったのかはわかりませんが
彼女は、いつの間にか親戚のお姉ちゃんみたいな存在になっていて
家にもよく出入りしていて
子供の頃から、どこかへ遊びに連れて行ってくれたり
勉強を教えてくれたり
とにかく面倒見の良い女性でした。
兄も姉もいないわたしは
ちょうどひとまわり違う…干支が同じ彼女のことを
『おねえちゃん』『おねえちゃん』と呼んでいました。
三姉妹の中でもわたしのことを一番可愛がってくれていて
その分わたしは、人一倍彼女になついていたのです。
子供の頃からわたしは、家族や親戚ご近所の人からは
『まみちゃん』と呼ばれていたのですが
ある日、彼女がいつものように夕方近くにうちにひょっこり現れ
『まみちゃん、ちょっといい?』
と言って、わたしを離れの建物に連れて行きました。
あらたまって何だろう?くらいは思ったかもしれません…
でも子供の頃からずっと大好きな『おねえちゃん』な訳ですから
何の不思議も感じずついて行きました。
部屋に入って向かい合って座ってようやく彼女が口を開きました。
『まみちゃん…わたし、来週北海道へお嫁に行くの。』
寝耳に水の話に、『えっ?なにそれ?』と、聞き返すと
『集団見合いでお見合いをして、好きでもない人のところへお嫁にいくの』
ますます
『はああ〜〜〜⁇⁇⁇』
という感じのわたしに
彼女は臆することなくこう言いました。
『まみちゃん…
実は、あなたのお父さんと12年付き合ってきたの。
あなたのお母さんには勝てたかもしれないけど
娘のあなたに勝てないのが悔しいの!』
耳を疑うようなそんな言葉を発したかと思うと
そのまま矢継ぎ早にそれまでの12年間に父とどんなことをしたのか
どんなところへ行ったのか…
果ては、男と女の話まで露骨にわたしに聞かせました。
何が起こったかわからず…
どういう言葉を発したらいいのかさえわからず
反論もできず、ヤメてとも言えず
ただただ彼女の口から出てくる聞いたこともないような
想像すらしたことのないあらゆる言葉を
呆然と聞くしかありませんでした。
悲しいとか、悔しい…なんて感情さえも湧いてこない
不思議な空間でした。
本当に彼女が父のことを好きだったことはよくわかりました。
父も、ある意味…彼女を必要としていたんだと思います。
でも、それは、しばらく時間が経ってから
わたしが少し歳を重ねてからわかったこと…。
彼女は、言いたいだけ…父との蜜月の話をわたしに聞かせたあと
『まみちゃん、今からお父さんのオンナのところ
全部連れてってあげるわ』
なんて、更にとんでもないことを言いだしました。
でも、その時のわたしには
その場から逃げる勇気もなかったのかもしれません。
彼女のしたいことにそのまま従うしかなかったのです。
彼女の
一世一代の『復讐』の場面を
わたしが台無しにすることはできなかったのかもしれません…

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