(29)あとは印鑑を押すだけ…

自信なんかまったくなく
いつまで続くかさえも確信もなく
 
それでも目の前に示された《イヤーコーニング》というものを
こわごわながらはじめて半年が経った頃…
 
まだその頃は
ホテルのBARとのかけもちをしており
昼間イヤーコーニングをどこかでさせていただき
夕方には帰って着物に着替えてホテルのBARへ
そんな生活が続いていた時のお話です。
 
まさか《イヤーコーニング》なるものに出逢うなんて
想像もしていなかったわたしは
 
数年来の男友達と
なにかのノリも手伝い
お店をやろうか…
なんて話が盛り上がり
けっこうマジに物件を探したりしておりました。
 
資金なんてどこにもないことを知っている彼は
『姐さんは立っててくれたらいいだけですから…
あとは、僕が段取りしますから…』
なんて、頼もしいことを言ってくださり
 
わたしも、その言葉に調子に乗り
甘えさせてもらって…
 
たまたま…その
《イヤーコーニング》なるものに出逢った前後に出た話でもあったので
 
昼間はイヤーコーニングができて
夜は、お酒を出せるお店にできたらいいね…
なんて感じで
家から通うことが可能な名古屋という街で物件探しをしていたわけです。
 
ほどなく
ころあいの物件が見つかりました。
 
カウンターと少しのテーブル席があり
扉の向こうには
VIPルームにもなるような
昼間はイヤーコーニングもできる別部屋のある
そんな願ってもない空間でした。
 
話はトントン拍子に進み
不動産業者と契約書の文言まですり合わせ
あとは印鑑を押すだけ…
 
という、まさにそんなタイミングで
イヤーコーニングの出張で
下関、広島、大阪という一週間の旅が入っておりました。
 
この一週間の出張から帰ったら
印鑑を押して、正式な契約となり
そのまま
お店のオープンに向けて走り出す…
そんな手筈で、下関へと向かいました。
 
たまたま、そこで出逢わせてもらったひとりの女性がおりました。
 
歯に絹着せぬ…もの言いのその歳上の女性との会話の中で
 
あれっ??? んんん???
 
と思うようなことが、わたしの中にありまして…
なにかがグラグラ揺れ始めたような感覚になったのですが
 
気のせい気のせい(笑)…と、広島へ向かいます。
次の地、広島では
博多の女性との時間をその地で約束していまして…
 
その彼女との会話の中で
思いがけないものが出てきてしまいました…(笑)
なにが出てきたのかと言うと…
ま、その時の感情をあえてそのままここに書くとするならば
 
『この国のためだけじゃない…
この星のためにここへきたのに
わたし、お酒の店をやってる場合じゃない!
イヤーコーニングをさせてもらうことでこの星のために働くんだ!』
その数ヶ月前に
この国のために働く…なんていう
今まで人ごとだと思っていたものを
わたしの中に見てしまっただけでも驚いたのに…
今度は
この星のため…なんていうのが
わたしの中から噴き出してきてしまって…
そりゃもう戸惑いましたよ…
 
わたし、そんな人じゃないし…って(笑)
でも、意図せず噴き出してきたそれに
涙を流す自分を見ながら
 
これって、もしかして
思い込みとか感違いとか
そんなものじゃないのかもしれない…
と思い直してみたものの…
 
だとしたら
その方が、未知すぎてさっぱりわからない世界だ…
と、またいつもの癖で
気のせい気のせい…と打ち消そうとしました。
 
ところが
打ち消そうとしても消えることはなく
奥深い部分にカチッとハマってしまったような感覚で
余計に戸惑うわけです…(笑)
 
それよりもなによりも
数日後に
この出張から帰ったら
契約書に一世一代のハンコを押す日が待っているのです。
 
その日を目前にして
いきなり『飲み屋をやっている場合じゃない!』
 
なんて…
いったいどうしろっていうのよーーーー⁉︎
 
って、そんな思いしか湧いてきません。
 
ここまで力を尽くしてくれて
すべての段取りをして
お金まで出すって言ってくれている
その男友達に
 
今さらなんて言うのよーー
断れるわけなんかないじゃない!
 
と、悶々とした時間を過ごします。
しかし、時間は容赦なく流れ
数日後には正式な契約が待っています…。
 
そんなまさかの自分を見てしまった広島を去り
最終地
大阪での二日間のセッションを終えたら
その足で三重に戻り
翌日には名古屋で契約という…
 
もうどうにもこうにもならない様子の日程です。
 
 
ところが、ほんとにわたしの人生は面白い‼︎(笑)
 
 
このあと
こんなことが起こるのか?
という出来事が起こったのです!
 
大阪二日間の
最後のお客様のセッションを終えさせていただいた
そのほんの2分後…
 
その男友達からの、まさに計ったかのような着信!
 
明日の契約の件の時間の確認かなにかだと思い
少しの憂鬱な気持ちで電話口に出たわたしの耳に飛び込んできたのは
 
まったく想像もしなかった彼の言葉だったのです。
 
慌てた調子のその言葉が放ったのは
 
『姐さん、大変です‼︎
いま、不動産屋から連絡が来て…
明日の契約を前に
保証人をもう一人立てろとか、保証金を倍にしろ
なんて無茶なこと言うんですよ!
 
ぼく、いろんな店やってきましたけど
こんなの初めてですよ!
これ、絶対おかしいですよ!
姐さん、このはなし…乗らない方がいいですよ!
断りましょう!』
 
『あ、はい…
あ、そうなのね…
はい…ありがとう…』
どれだけ呆然としたかは簡単にご想像いただけるかと思いますが…(笑)
こうして
誰にご迷惑をかけることもなく
一円のお金すら動くことなく
その夜のお店の話は、キレイに御破算となりました…のでございます。
 
 
ふふふ…
3年半前に起こった…まさにウソのような本当の話。
 
 
でも、そのおかげでいま…
 
こうして
日々、《イヤーコーニング》なるものを
ひたすらさせていただく
そんな環境をいただいています。
 
そしてそれが、わたしを拾ってくださった方の望みなら
そのように使っていただくことが
きっとよろしいのでございましょう(笑)

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