(24)ぜんぶやめる…。

その超満席の色とりどりの客席を前に
主催者として挨拶をするように…と台本にはなかったことを文昭さんに促され
えええ〜〜⁈
それがイヤで、わざとプログラムの中に載せなかったのにな〜これ…
と、思いながらも
そこで押し問答するようなぶざまな姿をお見せするわけにもいかず
見渡す限りのこちらを注目している2500を超える瞳の前に立ちました。
それも
『僕の講演会を、一人の主婦が集めてくれてこんな人数が集まったのは初めてです!』
なんてずいぶん持ち上げてもらってから…(笑)
なんの挨拶の文面も考えているわけではなく
恥ずかしい思いだけをするのは嫌だな…
と、思いながら
とにかく…目の前の方達に…そして、チカラを貸してくださった多くの方達に
まずはお礼を…
と、思って口を開いたら
なんだか…
やけにスルスルと言葉が出てきます。
わたし…こんなに雄弁でしたっけ?
って思うほど…(笑)
その挨拶も後半にさしかかった頃
ようやく気付いたのです。
あ、なにかのチカラに動かされてる!って。
なにかわからないそれが、知らぬ間に大きなチカラを貸してくださってたんだ…。
きっと最初からそうだったんだわ…
だから、あんな出会いもこんな出会いも
考えられないような大きな応援団を次々に目の前に登場させてくださったんだわ…
ああ、危うくわたし…勘違いするところでしたわ…って。
こんなに多くの人の前で
驚くほどこんなに気持ち良く喋らせてもらえるものなのか…という感じで挨拶を終え
この清々しい晴れ晴れとした気持ちは
いったい何なんだ?と、初めて尽くしのこの日の幕が降りるのを
お得意の涙ではなく…笑顔で終えたのでありました。
そうは言っても
感じたことのない喜びを感じ、これに味をしめてしまったわたくし…(笑)
二匹目のドジョウはいない…って、そんな言葉も知っているはずなのに…(笑)
同じその会場で、このあと何年も…何回も
無謀な挑戦をし続けたのです。
あんなに意気揚々と楽しさの中でさせていただいた最初の試みとは裏腹に
義理やしがらみを発生させる
別の世界のドアを叩くことになり
数を追い、その為に
苦しみのエネルギーを使う羽目になっていったのです。
それでも
どこか後ろに引けぬ…みたいな思いの負けん気の強いわたしは
その負けん気のおかげか(笑)
その会場で毎回、恥ずかしい数を叩きだすことはなかったのですが…
ところが
そんな…どこか無理をしながらの日々に
大きな矛盾を感じ始めます。
世間の人が
すごい!と褒めてくださり評価してくださることが増えれば増えるほど
一番身近にいる白髪のおじさんが
そっぽを向き、辛く当たることが増えたのでした。
いつのまにか
会話は減り…目を合わせることもなくなり
ひどい時には、数ヶ月間口も聞いてくれない…
皆無に近かった自分への肯定する気持ちを
ようやくこの講演会をきっかけに取り戻し始めたところだというのに…。
【 外 】でどれだけ評価をされちやほやされることが増えても
大切な【 内 】は、苦しくて悲鳴をあげている。
【 外 】にいる間は楽しい時間を過ごせるのですが
家に帰る時間や距離が近づくにつれて心が重くなる。
その頃のわたしの
唯一のホッとできる場所は
たった一人になれる
自分で運転する車の中だという
なんともバランスの悪い状況でございました。
そして
あの、わたしに大きなきっかけをくれた…弟のような存在の古川くんに
あの頃どれだけ泣き言を聞いてもらったかわかりません。
二人とも
抜けられないトンネルの中で
もがき苦しんでいる同士のようであり
【 外 】へはとびきりの良い顔ができても
【 内 】に苦しさを隠し持っている
そんな悲しいモノ同士でもあったのかもしれません。
根っこがしっかりと張っていない木が
枝ばかりを伸ばして葉っぱをたくさんつけてしまった…
あの頃のわたしは
そんな安定感のない…いつ倒れてもおかしくない
実は、とっても危うい姿だったのだと思います…
そんな危うさの中で
それでも自分にできることはなにか…なんて
探し求める気持ちに大きく焦り、そしてもがきながら
決めたこと。
それは
【 ぜんぶやめる…。 】
だったのです。

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