(13)最強のモノズキ

父の死の電話を受けて
すぐさまわたしは、白髪のおじさんに泣きながら電話をしました。
だって、彼は葬儀屋さんなんですもの…
実はその時すでに、わたしそっちのけで
父とそのおじさんを引き合わせるという段取りは進行していたのでした。
どれだけお見合いを勧めても気乗りのしない返事をする娘に、業を煮やした父は
人伝に聞くこの白髪のおじさんのことが気になり
この3日後に、彼ら二人は
病院から出ることのできないわたし抜きで会うことになっていたのです。
ところが、その日を待たずにこんなことになり…
初めて対面する父と白髪のおじさんは
駆けつけた葬儀屋さんと、棺の中にいる物言わぬ父の肉体だった…というわけです。
それも、本来の予定よりわずかに3日はやく…です。
わたしは、お通夜の夜から告別式の終わるまでだけ
その席にいて
骨も拾うことなく、そのまま息子の待つ冷たい鉄パイプのベッドにとんぼ返りです。
病院に戻れば、その場所での『日常』が容赦無く待っています。
お葬式という儀式の場にだけ居たわたしには
父のそれよりも、目の前にいる息子の一挙手一投足の方が最優先課題だったのかもしれません。
悲しむことも忘れて病院での時間を過ごしていました。
そんなわたしの様子を知ってか
白髪のおじさんは、葬儀屋さんという枠を超えて
そのあと、毎日わたしの家に通い
途方に暮れている母の相談相手になってくれていたようです。
そして、数日後におじさんから電話がありました。
『借金が13億、資産が14億。
いまわかってるだけでそれだけなんや。』
????????????????
『は? なにそれ????????』
いいか悪いかの判断抜きで正直に申し上げるなら…
我が家の家族は、誰ひとり父の会社の状況も、そこに関わる我が家の状況もなにも知らなかったのです!
もちろん…母も例外ではありません。
のちに、この金額は『20』という数字だったと聞かされるわけですが…
13でも20でも、わたしの範疇を超えている金額なわけですから
さっぱり現実味を帯びない話なのです。
病院にいるわたしにどうすることもできず
その知恵もなければ判断能力もなく
自分に降りかかった現実を、まるで人ごとのように
受話器を通して耳だけが聞いていた…
そんな瞬間でした。
結果的に…
彼は、わたしと籍を入れることを選択しました。
わたしも、相当な『モノズキ』だと思いますが
彼は、そのうえをいく『モノズキ』だったようです…(笑)
赤の他人が作った借金20億と…
他の人の子供を二人…
その一人はゴールのわからない入院生活を強いられている状況で…
さらに、まだその頃
亡くなった父の母親である…わたしのおばあちゃんと
成人式を今から迎える…という
一番下の妹も一緒に生活をしていたのですから
わたし以外の付属物多すぎ!(笑)
そんな金額の借金があるとわかった時点で
わたしとの関係を解消されてもおかしくはないと思うのですが
それもすべてわかったうえで
わざわざ火の中に飛び込んでくる…という
そんな『超』がつくモノズキの白髪のおじさんだったようです(笑)
家長が突然いなくなり、おんなこどもだけになってしまったこの家に
救世主のように現れたこの白髪のおじさんの
このあと3年近くに及ぶ戦いの日々は
わたしには想像もできない過酷なものだったのかもしれません。
ただ、ありがたいことに
彼は、それを過酷だとも思わない
ひょうひょうとしたところと
なににも動じることのない…
良い意味のふてぶてしさを兼ね備えていたのです(笑)
籍は入れたものの
わたしは、病院
彼は、わたしの実家に居る…という
摩訶不思議な生活がしばらく続きます。
あとでわかった笑い話ですが…
実年齢よりも20歳ほど歳上に見える彼が
いきなり
父のいなくなった家に入り込んだのですもの…
夫に急死されたまだまだ50代前半の妻に
新しいオトコがきた?(笑)
なんて大きな勘違いをされ笑われるくらい
母と彼は気が合ったようです。
前回の結婚で…
親の言うことは聞くもんだ…と肝に命じたわたしには
母が大きく信頼しているその白髪のおじさんとの結婚は
間違いないことだと思ったものでございました…
この時はね…(笑)

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